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「量子論」を楽しむ本

 SFの設定では多世界宇宙やタイムトラベルっていうのが常道なのだが、実は最新物理学の分野でかなりまじめに議論されているってお話。その根幹となっている理論が量子力学である。難しい物理を勉強しなくても、とにかくその概要だけでも知りたいっていう時に『「量子論」を楽しむ本』は素晴らしい入門書である。
 最近ではハードSFでもまじめにタイムトラベルが取り上げている。例えば、あのマイケル・クライトン原作の「タイムライン」も量子力学を応用して中世への時間旅行の実現可能性を物語として膨らませたものである。小説ではその辺りがしっかり描き込まれているのに(もちろん理論の肝心なところはぼかしている)、映画の方はただのエンターテイメントになっちゃってたけど。
 アニメーションの世界では、今まさに旬の「ノエイン~もうひとりの君へ~」で量子力学をぶっている。量子力学の事を知っていなければ、何が起こっているかが分からないストーリ展開も一部では見受けられる。一見、主人公がただ夢を見ているだけだったり哲学の説明をしているようにも見えるのだが、実は量子力学で実際に議論されている世界観をさりげなくストーリに取り入れているわけだ。
 量子力学となると、分子や原子よりも小さな世界の話であり、高校の物理で習ったプランク定数や、大学で知った波動関数とかが出てきてしまうわけだが、本書ではこれらを「量子論」と割り切って、それらの理論や言葉がどういう歴史や背景で生まれてきて、どういう実験で確かめられてきたかを平易な言葉で説明してくれている。七面倒くさい式や数字はほとんどといってもいいくらい出てこない。表面をなでているだけなので、これは哲学ではないのかと思える部分も無い事もない。
 前半は本当に高校の物理の復習であるが、教科書や授業でこういうふうに教えてもらっていればもっと楽しく、理解できたのに!っていう展開である。もちろん最新の量子論の説明でも、多世界宇宙の概念やその考え方がが現れた背景まで明快に説明してくれている。WikiPedia-jpにも「シュレーディンガーの猫」の説明はあるけれど、それよりもはるかに分かりやすい。物理学は相対性理論で挫折したっていう人には超お勧めである。まぁ分かると言っても、「人間が意識(観測)をするから世界が存在する」なんて哲学的な領域でもあるので、本当にこれが科学なのかと理解に苦しむ。
 量子論を膨らませ、さらに現在の宇宙論がどうなっているのかを、数式はともかくとしてその概要だけでも知りたいという人には同じ著者による「宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった」がお勧め。かのホーキングが主張する最新の宇宙論(時間は虚数次元で表される球体である)までも、なるほどぉと分かった気になってしまうだろう(そういえば、松本零士の「ミライザーバン」でも時間は球体で描かれていたっけ!)。
 いずれにしても、『「量子論」を楽しむ本』はあくまで専門書に入る前の導入書である。さらに次の段階に進むには、ブルーバックス、そして専門書が必要である。