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排出権商人

 久々に日本製の小説らしい小説を読んでみた。
 「排出権商人」は、今もっとも熱い二酸化炭素排出削減ビジネスのお話。ここではあえて温室効果ガスとは言わないでおこう。
 舞台となるのはまさにCOP15開催直前くらいまでの「現在」なので、世界で何が起こっているかのお勉強には最適である。マスコミ(最近はマスゴミか)では言葉だけしか出てこない、「排出権取引」や「CDM」といったビジネスの実態が描かれている。風力発電や炭坑メタン回収を手がける怪しげな事業者、商社、それに輪をかけてさらに怪しいカラ売り屋の暗躍などをきちんと人物を登場させることで、無味乾燥なビジネス用語に、姿形を持たせることに成功している…と思う。多分、実際のビジネスの現場に同行取材したのか、あるいは現場の人間を相当徹底的にインタビューしたのだろう。
 と、いうことなのだけれども、本書はあくまで「ビジネス書」と割り切って読まれることをお勧めする。「小説」として読んだら、大したオチもないし、盛り上がるイベントもない。感動するお話でもなく、すっきりするお話でもない。伏線と思っていたものは全部放置したままで終わってしまう。一番最後の「オチ」を評価する人が多いようだけれど、今さら分かり切ったお話だし。やっぱり日本の小説はダメだねぇ。
 地球温暖化ビジネスの小説として圧倒的に面白いのは今は亡きマイケル・クライトンの「恐怖の存在(State of Fear)」だ。ビジネスの現場を単に形だけ小説にするだけでなく、想像や思考をふくらませて「ひょっとしたら将来こういうことが起こるかも知れない」世界を独創的に描き切っている。
 二酸化炭素削減はビジネスになるので、どんどん進めていくんだけれど、個人的には地球温暖化防止とか、地球に優しくとか、お題目を唱えるだけの感傷的な活動はまっぴらごめん。「地球温暖化」が正しいかどうか知らないが、ぼったくられないようにするだけの知識と知恵は備えておくべきだろうねぇ。